結論
「音色」の多くは「ねいろ」と発音します。これは、音響学や音楽などの分野によりません。ただし、シンセサイザーなどでの音作りを対象とした場合や演奏家らは「音色」を「おんしょく」と発音することもあります。また、「おんしょく――」というように、「音色」を「おんしょく」と発音する音楽用語もあります。「音色」自体を「おんしょく」と発音するか「ねいろ」と発音するかの違いによって意味が異なることはなく、いずれの発音でも「音色」を指します。
おんしょくとよんだ日々
、私は「音色」という単語を用いてゼミで発表をしました。私は「おんしょく」と読んだのですが、質疑で「『おんしょく』ではなく『ねいろ』ではないか」と指摘されました。ここ数年は、「音色」を「おんしょく」とよんでいたので、これは参ったなーと思いながらこれを書いているのです。
調べてみた
岩宮 編著の「音色の感性学」[1]によると、
- 音色は、「ねいろ」または「おんしょく」と発音される
- 日本語としてはもともと「ねいろ」が本来の発音であろう
- 「おんしょく」は、音楽などで特殊な対象に対して用いられた読みが一般化したものと考えられる
- 音楽関係で音色を調整、加工する場合には、「おんしょく」が用いられることが多い
らしいです。
音響学として
実際、音響学としての立場からすると、「ねいろ」とよむようです。例えば、鈴木ら 共著の「音響学入門」[2]には、「音色」とルビまで振られています。また、「新版 音響用語辞典」[3]でも「おんしょく」としては「ねいろ」への案内すら無く、「ねいろ」の読みだけに収録されています。
そもそも音色とは、音の三要素のうちの1つであり、音の三要素(音の大きさ、音の高さ、音色)は物理的な音の特徴を表すものではなく、正確には心理的な音の特徴を表す専門用語[4]だそう。つまり、「音色」は専門用語として「ねいろ」とよまれているといえます。
音楽として
「標準 音楽辞典」[5]には、「おんしょく」は「ねいろ」への案内として収録されています。「おんしょく」に次いで、「音色旋律」、「音色法」という単語が収録されおり、音楽にとって「音色」を「おんしょく」とよぶ頻度は高そうです。しかし、音楽について述べる本[6, 7]においても、索引では「音色」を「ねいろ」として扱っています。
国語として
「広辞苑 第七版」[8]には、「おんしょく」は「ねいろ」への案内として収録されており、「おんしょく」の追込項目として「音色旋律」が収録されています。国語的に「音色」を「ねいろ」のことを指して「おんしょく」とよぶこと自体は間違いではなさそうですが、「ねいろ」よびのほうが優勢です。
高校物理では
高校物理の教科書[9]には、波の単元の「音」の章で、「音色」とルビが振られて説明されています。
インターネットを見てみる――シンセサイザー
ヤマハのシンセサイザーのフィルターを紹介するページでは、「……それは音色(おんしょく)というもので、同じ漢字を書いて『ねいろ』とも読みます。」[10]と、第一に「音色」を「おんしょく」と読む立場であることが分かります。これは、先に紹介した「音楽関係で音色を調整、加工する場合には、『おんしょく』が用いられることが多い」という岩宮の主張の裏付けになるでしょう。
インターネットを見てみる――演奏家
演奏家には「音色」を「おんしょく」とよむひとも、「ねいろ」ともよむひともいます。YouTubeで演奏家が音色に関して解説する動画を見てみましょう。
YouTubeチャンネル「バンドジャーナル編集部」に投稿されている
- 「テューバ:チューニングで音色がよくなる!【バンドジャーナル2024年8月号ワンポイントレッスン】講師:淋 智博さん(チューバサダーズ)」という動画の1分40秒あたり
- 「トロンボーン講座:「こんな音を出したい!」を探そう【バンドジャーナル2024年5月号ワンポイントレッスン】講師:髙瀨新太郎さん(東京都交響楽団首席)」という動画の5秒あたり
を見てみると、「音色」のことを「おんしょく」とよんでいます。一方、
- 「フルート:音色について考えよう【バンドジャーナル2024年9月号ワンポイントレッスン】講師:佐藤直紀さん(チェコ・フィルハーモニー管弦楽団首席)」という動画の3秒あたり
を見てみると、「音色」を「ねいろ」とよんでいます。
私が「音色」を「おんしょく」とよんだのは、吹奏楽部での演奏経験があることが大きく関係していそうです。
終わりに
いかがでしたでしょうか。音色は「ねいろ」とも「おんしょく」とも読めること、そして、音響学の専門用語としては「ねいろ」と読むことがふさわしいことが分かりました。
参考
- 岩宮眞一郎 他, 音色の感性学 ――音色・音質の評価と創造―― (コロナ社, Tokyo Japan, 2010), p. 1. (富山県立大学附属図書館蔵書)
- 鈴木陽一 他, 音響学入門 (コロナ社, Tokyo Japan, 2011), p. 36. (富山県立大学附属図書館蔵書)
- 日本音響学会, 新版 音響用語辞典 (コロナ社, Tokyo Japan, 2003), p. 297. (富山県立大学附属図書館蔵書)
- 青木直史, ゼロからはじめる音響学 (講談社, Tokyo Japan, 2014), p. 144. (富山県立大学附属図書館蔵書)
- 音楽之友社, 標準 音楽辞典 (音楽之友社, Tokyo Japan, 1966), pp. 211 ,883. (富山県立大学附属図書館蔵書)
- 谷口高士, 音楽と感情 (北大路書房, Kyoto Japan, 1998). (富山県立大学附属図書館蔵書)
- 徳丸吉彦, 音楽とはなにか――理論と現場の間から (岩波書店, Tokyo Japan, 2008). (富山県立大学附属図書館蔵書)
- 新村出, 広辞苑 第七版 (岩波書店, Tokyo Japan, 2018), p. 464. (富山県立大学附属図書館蔵書)
- 國友正和 他, 改訂版 総合物理2 (数研出版, Tokyo Japan, 2020), p. 40. (本棚)
- ヤマハ | 音色を変化させる装置=フィルター - シンセサイザー入門, 閲覧.